漆黒の斬撃

東京砂漠に生きる役者が、主に物語を書き綴るブログです。つたない文章ですが、お付き合い頂けたら幸いです。

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  晩秋が呼ぶ後悔。
「だからなに怒ってるんだよ!」
「そんな事も分からないから怒ってるの!!」
「んだよそれ!ワケわかんねぇ…」
「もういい!!バカ!!!!」

そう言うと、彼女はまるで雑草を
引き抜くように、カバンを床から拾いあげ
鋼鉄の扉の前で一度立ち止まったのか
走り去る音が不意に聞こえなくなった。

扉が開き、湿った風を感じて玄関を見ると
すでに、扉の前に彼女の姿は無かった。

ワケが分からなくなんて無かった。
間違っているのは、絶対に俺だ。
ほんとに、ごく些細な事だった。

だけどタイミングが悪かった…というのは
言い訳に過ぎない。行楽シーズンが迫り、
抱えている仕事が忙し過ぎて、ここ最近は
ずっと茜をほったらかしにししまっていた。

そんな俺を気遣うように、茜は献身的に、
優しく接してくれた。不甲斐無い、と思いつつも
どうしても溜まったストレスを茜にぶつけがちに
なっている自分に嫌悪して、それが余計に
ストレスになっていくのがもどかしかった。

今日は、久々に茜が家に泊まりにきて
ろくなモノを食べていない俺に
手料理を振舞ってくれると言って
色々頑張ってくれていた。

それなのに、俺は言ってはならない
一言を、茜に言ってしまった。


『就活で疲れてるのによくやるよねぇ。見返りは何?』


ほんの、軽い気持ちで、もちろん
冗談のつもりで言った言葉だった。
だけど、茜にしてみたら、それが
スイッチになったようだった。

一人、茜の居なくなったリビングで
テレビを見ながら、グラスを傾ける。
荒れる各地の映像とともに、カッパ姿の
リポーターが叫ぶお決まりの台風情報。

茜が気になって玄関へ向かおうと思ったが
今会ってもきっとダメだ、明日きちんと謝ろう。
そう思って、グラスに残った酒を氷ごと
口に流し込み、そのまま眠る事にした。

ベットにもぐりこみ、電気を消すと
酔っ払った若者の集団の騒ぎ声や
サイレンの音、それら街の喧騒に混じって、
時折届く風の哭く音が、少女の
泣き声のように…聞こえた気がした。
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2006/11/05/Sun 23:13:24   十六夜~月下天真~/CM:0/TB:0/



  後悔という名の胎動。
「てっちゃんの…バカ……」

靴を履く手を一瞬止めて、携帯を
下駄箱の上に置いた。私の覚悟。
触れたドアノブの冷たさに少し驚き
風で少し重い扉を開けた。

階段を足早に駆け下り、近くの公園まで来て
重い足取りと乱れた呼吸を整えながら、
ようやく落ち着きを取り戻した。

「なにやってるんだろ…私…」

自分でも驚くほど衝動的に部屋を飛び出した。
さすがの私も、我慢の限界だったらしい。
だって、今日は…あ、もう…今日が終わちゃった。
公園の時計を見てから、改めて自分の腕時計を見た。

彼、栗原哲平とは、付き合って一年。そう、ちょうど一年。
五歳年上の彼。私はまだまだ子ども。もうすぐ
就職活動が控えてる、ただの、平凡な大学生。
彼は、大手旅行代理店に勤める、敏腕プランナー。

出会ったきっかけは、高校ニ年生の修学旅行。
修学旅行の時に見た彼(の仕事振り)に惹かれて
偶然の再会を期待しながら、親友の由貴と
一緒に企画した卒業旅行をお願いする為に
彼の職場へ押しかけた。

ホストクラブよろしく、若気の至りというか
店に入っててっちゃんを見かけるなり
自分でも驚くくらいの大声で名指しして
隣に居た由貴に後でいっぱいお説教されたっけ。

クスクスという笑い声が聞こえるくらいに
バカにしたような女性社員の視線など
おかまいなしに、私はてっちゃんに
卒業旅行の計画をお願いした。

てっちゃんは、熱心に私たちの話しを聞き
最高のプランを立ててくれた。その後、何回か
お店に立ち寄って最終的な打ち合わせを終えて
お店を出ようとしたとき、私を呼びとめて


『旅行が終わったら今度は遊園地、ってのはどうかな?』


そう言うと、てっちゃんは私に自分の名刺をくれた。
手書きで書かれた、私用の携帯番号の載った名刺を。
意外と積極的な人だなぁってその時は思ったけど
実際にプライベートで会うと、かなり奥手な人だった。

卒業旅行を終え、大学が始まるまでの春休み中に
てっちゃんの誘い通り、遊園地に出かけた。
二人で入場門をくぐって、ジェットコースター乗って
ソフトクリーム食べて、観覧車に乗って、やっと手を繋いで…

一年半くらい友達として付き合って、一年前の今日…
この公園で、私は【お客様】から【お友達】を経て
晴れて【彼女】になった。

由貴や他の友達にも色々と言われた。
五歳も年上の人とうまくいくわけないって。
そんなこと、由貴に言われなくても分かってた。
だけど、好きになっちゃったんだもん……

私は、その歳の差を埋めよう努力した。
だけど、そんな私を気遣っててっちゃんに
優しくされるとそれはそれでなんだか辛かった。

てっちゃんの負担になるのは嫌だった。
てっちゃんは不器用だからすぐに顔にでちゃうし。
その不器用な優しさがイイトコロでもあるんだけど。

私が初めててっちゃんの家にご飯を作りに
行ったとき、私はまだ料理に慣れてなくて
出来は最悪だったのに


『料理はさ、やっぱ愛情こもってると違うね!』


そう言って、ちょっと涙目で笑いながら全部食べてくれた。
あんなに…いっぱい怒って家を飛び出したのに…
やっぱり好きなんだなぁ…てっちゃんのコト…。

でも今日はもう戻らない…。その為に、携帯も
置いてきたし…もしてっちゃんから電話がかかってきたら
絶対に帰っちゃいそうだし…。携帯…気が付く…かな…

湿った強い風が、心だけではなく身体も冷やす。
足元の紅葉を眺めていると、頬に水滴が流れた。
次第に水滴は幾粒も落ちて、地面を濡らし始める。
袖で頬を拭い、私は公園の入り口へ歩いた。

今夜は由貴の家に行って…もう一回、ちゃんと泣こう…
2006/11/10/Fri 23:16:26   十六夜~月下天真~/CM:0/TB:0/



  胎動する深淵。
「ん…?なんの音だよ…どっから鳴ってんだ…?」

翌朝、俺は聞きなれない着信音で目が覚めた。
それは、玄関の方から鳴り響いていた。

「なんで玄関から…着メロ……?」

よくよく見ると、下駄箱の上に見慣れた携帯があった。
それは、昨日家を飛び出した茜の携帯電話だった。

「バッカヤロ…あいつ…携帯置いてったのかよ…」

俺が、大学入学祝いに買ってあげた携帯電話。
旅行先で買ったストラップやキーホルダーが
ひしめき合い、携帯よりも重量を増していた。
重くないか?って聞いたら


『てっちゃんとの思い出の重さだもん♪』


無邪気に笑う茜に、つられて俺の顔もほころんだ。
前向きで、真面目で、向上心があって、だけど
負けん気が強い、努力家の、ちょっとドジな…俺の彼女。

自分が年下だっていうことを、少しコンプレックスに
感じていた節はあったけど、なるべく茜にはそれを
感じさせまいとして振舞った。だけど、やっぱり
女の子っていうのは敏感なもので、すぐにバレた。


『その気遣いが、逆に私は寂しいかな…』


俺は彼女の事を考えている【つもり】になっていた
だけだった。だけど、そういう事があって、俺たちの
仲はもっと深まったような気がした。そんな健気な
彼女に、俺はいつの間にか甘えていたんだ…。

なんて、感傷に浸ってる場合じゃなかった。
これじゃあ消息が全く分からない…しまった…
こんなことならすぐにあとを追いかけるんだった…。

後悔しても始まらない。とりあえず、携帯を
見たら何か手がかりがあるかもしれないし
最悪、由貴ちゃんの連絡先が分かるだろうから
由貴ちゃんに事情を説明して、一緒に探してもらおう。
そう思い携帯を開いたら、その拍子にボタンを
押し、受信していたメールの画面を開けてしまった。

「……そっか…だから茜のやつ…」

俺は、そのメール画面を見て愕然とした。
メールは、由貴ちゃんからのお祝いメールだった。
昨日は、俺たちが付き合いだして一年目の
記念日。同時にそれは、茜の誕生日。

忙しさで忘我していたとはいえ、完璧に俺のミスだ…。
謝ろう。許してもらえないだろうけど謝るしかない。
記念日なのに…誕生日なのに…悪気が無かったとはいえ、
茜に最低の態度をとった…。悩んでてもしょうがない。
一刻も早く由貴ちゃんに連絡しよう。彼女の携帯の
電話帳を開いて、由貴ちゃんの電話番号を探した。

「もしもし?由…」
「どちらさまですか!?」
「あ、えと、哲平だけど…」
「哲平さん!」
「え、あ、うん。ちょっとワケあっ…」
「あの!!!今、どこに居ますか!?」

電話の向こうの彼女はひどく慌ててる様子だった。
俺からの電話が、そんなに驚いたんだろうか。

「え?いや、今自宅だけど…」
「すぐ白百合総合病院まで来て下さい!!!」
「????」
「…かねが…茜が!!!!」

由貴ちゃんが、涙混じりに叫んだ。
茜が、意識不明の重体だ、と………。
2006/11/10/Fri 23:18:05   十六夜~月下天真~/CM:0/TB:0/



  深淵に浮かぶ満月
「そっかぁ…哲平さん、最近忙しいんだ?」
「うん。時期が時期だし、しょうがないけどね」
「でも、それで茜に冷たいって、ちょっと酷いよね~」

Tシャツ姿の人も減り、長袖の人が多くなってきた
人混みを見ながら、カフェで由貴に愚痴をこぼしてた。

大学のすぐそばにある、お気に入りのカフェ。何かあると
由貴を誘って、このカフェテラスで陽が暮れるまで色々と
語り合うのが、大学に入ってからの恒例行事だった。
今日は長くなると思って、コーヒーだけじゃなくて
ケーキセットも頼んだ。今夜は、ケーキも用意しよう。

由貴に話を聞いてもらってから、私は冷蔵庫の中身の
確認と部屋の掃除をする為に、てっちゃんの部屋に行った。

「さてと、買い物に行きますか♪」

部屋の片付けを済ませ、食材の買い出しにスーパーに
向かった。てっちゃんの気持ちを少しでも盛り上げる為に、
今日の誕生日はなんとしても成功させたかった。

それは、私のエゴなのかもしれないけど…

アパートの階段を下りると風が少し温かった。
天気予報で言ってた通り台風が近づいてるみたい。
珍しく天気予報が当たりそうだなぁ…と思いながら
私は早足で歩き始めた。

「あ~あ。やっぱり髪縛ってくればよかったなぁ」

強くなってきた風に髪を弄ばれていると、私は
不思議な光景を目にした。紅く色付く樹の向こうに
私自身を見かけた。風にセミロングの髪をなびかせ
グレーのカーディガンを羽織った…今日の私と同じ格好の。

一瞬、私は何が起こったのか分からなかった。
見間違いかと思ったけど…アレは私自身だった。
何の根拠も無いけど、漠然とそんな気がした。

突風でスカートの裾に気をとられてる間に
彼女を見失った。辺りを探したけど、もうどこにも
彼女の姿は見え無かった。そんな…私なワケ無いよね。
やっぱり就活で疲れてるんだ。

そう…疲れてたんだ…。てっちゃんが仕事で
疲れてる事は分かってるんだし、私が我儘言って
余計に疲れさせてちゃダメだよね。こんな事で
音を上げてたら、これから先だってやっていけないし。
今夜は、てっちゃんに少しでも楽しい時間を
過ごしてもらおう。いっぱい、いっぱい……………








気が付くと、私の視界には白い天井が見えた。
見覚えの無い天井。横で人の声がする。
天井を眺めながら、段々と意識が覚めてくる。
人の声に意識を向けようとすると、白衣を着た
白髪の老人が、私の眼球を照らした。
ここは…病院…?私…助かったの…?

「冴島さん。娘さん、気が付きましたよ」

医者がそう言うと、一人の女性が泣きながら
私に覆い被さってきた。娘さんってことは母さん…?
意識はあるけど、身体がうまく動かせなかった。

「よかった…病院から連絡もらって…びっくりしたんだから…」
「じゃあ冴島さん、まだ無茶をさせちゃいけませんよ」
「はい。ありがとうございました」
「母…さん…?」
「どうしたの美月?」

そう言って私の顔を覗き込んだのは、母さんじゃなかった。
私の知らない、女の人だった。その人は私の事を
【美月】と呼んだ…。何がなんだか分からなくなって
記憶と意識を整理しようとしたけど、そのまままた
奥底へ沈みそうになり瞼を閉じた。

その直前、窓際から見えた乳白色の満月が
まるで空にポッカリ開いた抜け穴のように見えた。
2006/12/10/Sun 01:30:43   十六夜~月下天真~/CM:0/TB:0/



  満月が照らす悪夢
「茜…嘘だろ…なぁ…」

全力で病院に向かって走った。距離なんて関係なかった。
電車やタクシーに乗る事なんて思い浮かばないくらい。

茜は、由貴ちゃんの家に泊まりに行こうとしていたらしい。
由貴ちゃんは公衆電話から茜の電話を受けて、声の様子から
何も聞かずに了承をし、携帯を持っていない茜を待つ事にした。

だけど、茜が居た公園から由貴ちゃんの家まで一駅しか離れて
いないのに、茜が一時間経っても来ないのを不思議に思い
小雨も降りだしてきたから心配になり公園まで向かったらしい。

そして、公園には物凄い人だかりと、救急車が止まっていた。
人混みをかき分けた由貴ちゃんの目に飛び込んできたのは
大量の血の海と、ガードレールにぶつかったトラックと
まるで生気の無い顔をした、親友の姿だった…。

由貴ちゃんは動揺をしながらも事情を説明して、救急車に
乗り込み、とりあえず茜の両親に連絡を取った。一命は
取り止めたものの、大量の出血と雨の冷たさで、意識不明の重態。

由貴ちゃんは、消え入りそうな声で昨夜の出来事を丁寧に
説明してくれたが、未だに気持ちが落ち着いていないようだった。
もちろんそれは俺も同じだった…。あのとき…追い掛けていたら…
携帯に気付いていれば…あんな一言を言わなければ…
鎖で全身を縛られ地中に引き摺り込まれるような後悔に襲われた。

「ごめんなさい!!」
「あ、いえ…」

こんな時間に紙袋を持って病院に居るくらいだから
見舞いに来た女性だろうか。病院の入り口でぶつかった
女性に一言謝り、そのままカンファレンスに急いだ。

「あの!深夜に…救急車で運ばれてきた、大学生くらいの…」
「南条茜さんですか?」
「はい!そうです!!」
「ご家族の方ですか?」
「あ、いえ…あの…彼氏です…」
「彼女はまだ…面会謝絶の状…」
「哲平さん!!!」

そう叫んだのは由貴ちゃんだった。彼女の服は
雨に濡れ、袖口や胸の辺りが赤く滲んでいた。

「由貴ちゃん…」
「茜…面会謝絶で…」
「うん…今…聞いた…」
「茜…血が…トラックで…」

両親の手前だったからなのか、我慢していたであろう涙を、俺の前で流した。
皮肉だな…彼女の涙を見て、平静を取り戻した。だけど、小さな身体を震わせ
泣きじゃくる彼女を、そっと抱きしめる事しか出来ない自分の無力さに崩れそうだった。

茜…大丈夫…だよな…?また…俺や由貴ちゃんに…
お前のバカみたいな笑い声…聞かせてくれるよな…?
2006/12/30/Sat 23:07:53   十六夜~月下天真~/CM:0/TB:0/



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