漆黒の斬撃

東京砂漠に生きる役者が、主に物語を書き綴るブログです。つたない文章ですが、お付き合い頂けたら幸いです。

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  残された血。
「…めろ…やめろ…やめろぉぉぉぉぉ!!!!!!」

あの人に向かって、俺は叫んだ。何も出来なかった
自分の無力さに嘆きながら。空に遠雷が轟く夜、俺は
目の前で父上を殺され、母上は遠方の地に幽閉された。
残されたのは、まだ幼い妹と、憎悪という名の種。

「小僧…助かりたいか?」
「……」
「なんだ?恐ろしいのか?」
「!」
「いいぞ…そうだ、その眼だ!人に非ざるその眼で、俺を見ろ!!」
「なぜ…なぜ父を殺した!?」
「なぜ?覚えておけ小僧。今の時代、人を殺すのに理由など…」
「実の弟だろ!?」

一瞬、あの人の眼がくすんだような気がした。次の瞬間
豪腕と呼ぶに相応しいその腕を、俺の眼前に伸ばしてきた。

「やめろ!小夜に触るな!!!!」
「兄上!」
「父は守れずとも、妹は守る、か?」
「煩い!!!!!」
「笑止な…」
「っぐ!?」
「兄上!!」
「っがは!」
「このまま…首の骨を折ってやってもいいんだぞ?」

あの人は笑っていた。まさに、狂気…いや、狂鬼だった。
妹は、俺を助けようとして男に飛び掛かり噛み付いた。

「放せ!兄上を放せ!!」
「優しい妹に感謝するんだな、あにうえ」
「がっ!」
「兄上!!!!!!」

そのまま首をつかまれ投げ飛ばされた俺に
最早立ち向かう気力は残っていなかった。
駆け寄ってきた妹を傍らに抱き寄せ、なんとしても
妹だけは守ろうと思いながら、あの人の目をじっと見据えた。

「小僧…そのまま聞け」
「はぁ…はぁ…」
「今、この地…いや、この国は混沌の最中にある」
「……」
「だから必要なんだ。鬼と、魔王と呼ばれるような、絶対的な…力がっ!」

そう言うと、まるであの人の言葉に呼応するかのように
空には一筋の閃光が走り、刹那に巨大な轟音が鳴り響いた。
気が付くと遠雷が雨雲を呼び、やがて辺りは雨につつまれた。
あのとき…あの人は何を考えていたのだろう…

「忘れるな。お前の父を殺した、俺への悪しき感情を、その憤怒の憎悪を」
「……」
「今日からお前は、俺の部下だ。俺の下で働け」
「なっ!?」
「そして隙在らば、いつでも殺しに来い。無論、この命安くは無いがな」
「何を…考えている…」
「何も。全ては余興、俺がこの国を手に入れるまでの退屈しのぎだ」
「退屈しのぎ…だと…?」
「ああ。そうだ。俺が業を背負う為の、退屈しのぎだ…」
「なぜ貴様に…」
「拒む権利など…あると思うか?」

時折の雷光に煌く刃は、妹の喉下に突き付けられた。
雨音だけが、あの人へ反逆を犯し続けている。

「全ては、俺の掌の中だ」
「くっ…貴様に、人の血は流れていないのか!?」
「とうに流し尽くしたわっ!鬼となり、お前の父を斬った瞬間にな…」

そう呟き刀を握り締めると、香乃の噛み痕から血が流れた。
俺と同じ赤い色をした鬼の血は、そのまま雨に消えた。

「この優しき魂が大切なら、俺の命をとるまで、妹より先に死ぬなよ?」
「貴様に言われるまでも無く…俺は…生きる…」
「せいぜい腕を磨き、鍛錬に励むんだな小僧…いや、信澄」
「生きて…必ず我が手で、父の元へ送ってやるぞ!!悪鬼…信長っ!!!」


俺はあなたの為に華を咲かせよう…。あなたの為だけの華、血だまりの華を――――




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2006/11/20/Mon 00:15:08   血だまりの華/CM:0/TB:0/



  憎む血。
血の匂いが…したような気がした…。
気のせいか。ここのところ稽古と戦が続いて
きっと疲れが溜まっているのだろう…

あれから五年。決して忘れる事の出来ぬ一夜。
何もかもが変わった日。奴が言うように、力も
付けた。体躯も整った。この五年で、奴の
行動も、それとなく読めるようになった。だが…

「信澄様」
「なんだ?」
「お館様がお呼びです」
「こんな早朝だが、どうせ火急ではないだろう?」
「ええ、私もそう思います」
「いつもの戯れ、か」
「ですが…」
「中身は私より幼き方だからな。些細な事で激昂しかねん」
「これで私の首も守られます」
「仁吉、殿にはすぐに行くと伝えてくれ」
「は。では」

寝起きの悪い夢を見て、ひどい寝汗をかいていた。
仁吉に呼ばれ起き上がると、刺すような冷気が
身体を覆った。洛陽が早くなり始め、いつしか
朝には氷が張るような季節になっていた。早いものだ。
着替えを済ませ、廊下を急ぐと彼を見つけた。

「明智殿」
「おお、信澄殿。そなたも信長様に?」
「でなければこんな早朝に部屋は出ませんよ」
「確かに。何用かは…」
「知る由もありません」
「だろうな…。しかし、なんだと思う?」
「それが分かれば、私は易者にでもなりましょう」
「うむ、それもいいかもしれんな。そなたに剣は似合わん」
「私が刀を捨てれば…首が一つ落ちましょう…」
「いや…済まぬ…」
「いえ…」

俺たち兄妹が、織田の縁者だと知る者は、父の側近だった
柴田殿を含め、前田殿、木之下殿、明智殿、そしてお農様。
それ以外の者は「殿の気まぐれ」で拾われた兄妹だと思っている。

実際そう思われていた方が、城内では過ごしやすい。
父上は、謀反人の烙印を押されている。その嫡男が
生きていると知れば、例え奴が許しても、家臣の
誰かが俺たちを生かしてはいないだろう。それは
この五年でよく分かった。奴はうつけだ、うつけだと
言われているが、その行動は全て計算されているものだ。
並の者には理解出来なくとも、俺にはそれが、分かる。
吐き気がするほど憎いが、織田の血の成せる業なのか…

「おお!お二人とも、こんな早うから済まんな」
「柴田殿が謝る事ではありませんぞ」
「それで、殿はどちらに?」
「わしが知りたいところじゃ。何処にも見当たらん」
「全くあのお方は…」
「ま、そのうち出てくるじゃろうて。がはははっ」

笑っている柴田殿の目が動いていないのを
俺は見逃さなかった。勇猛な人だが、この人は
最後まで父を守ってはくれなかった…。

三人で呆れていると、遠くから奴の声が聞こえた。
陽が昇りはじめ、凍った地面がパキッと音を立てた。
2006/12/19/Tue 01:54:33   血だまりの華/CM:0/TB:0/



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