漆黒の斬撃

東京砂漠に生きる役者が、主に物語を書き綴るブログです。つたない文章ですが、お付き合い頂けたら幸いです。

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  帰省。
目の前の光景に、俺は今だに理解を出来ずにいた。
倉石真奈美、17歳。成績優秀、バスケ部所属。
身長およそ150cm、体型はスレンダー。

特別目立つような容姿では無いけれど
バランスの良さが際立って、校内でも
知らない人間はいないほど、有名な女子。

その彼女が自分の胸元に手を伸ばしたかと思うと
制服の赤いリボンをほどき、そのままするりと床に落とした。

****************************

お昼過ぎに降った夕立は完全に止み、道は少し湿っていた。
年明けから舗装を始めていたらしいこの駅前のこの道路も
梅雨前には完成し、既に人々に踏み荒らされ、一緒に立てられた
記念碑に見向きをする人間は居なかった。商店街は
夏祭りの活気に、慌しくも賑やかに笑顔が溢れていた。

「な?んか子どもン時と比べると、雰囲気変わったなぁ…」
「何言っとんの。雰囲気変わってもイイトコっしょ、ここは」

出来たてのたこ焼きを、はふはふと口に頬張りながら
他の屋台を物色し始めた悠太に言葉を返した。

「イイトコ?そんな風に思えるお前の精神が羨ましいよ」
「お。トシが褒めてくれるなんて珍しいなぁ」
「お前は全然変わってなくて嬉しいよ」

大学へ通う為にこの街を出てから五年。俺、飯塚明俊は
友人の結婚式に出席する為に、三年振りに帰省をしていた。

結婚をするのは、俺の隣に居る同級生の阿川悠太。

駅周辺の開発は年々進んではいるが、県内の他の大きな
市に比べたら田舎臭さは拭えない、なんて思ったのは
都会暮らしが長くなりつつあるせいだと思う。きっと。

舗装なんて新しくしても商店街は廃れ、この夏祭りの屋台にしても
年々数が減っていると聞いた。久々に屋台を巡る俺の目には
少年時代の自分を重ねるような子どもたちは、数えるほどしか映らなかった。

「おお!チョコバナナみっけ♪」
「そりゃ定番なんだし当たり前だろ」
「甘いなぁ。このチョコバナナのチョコよりも甘いよぉ、トシソン君」
「どこの探偵助手だよ。最近は辛いチョコバナナでも売ってんのか?」

子どもの頃は、普通の味しかなかったチョコバナナも
時代のニーズなのかはたまた生き残りなのか、今では
イチゴチョコやらメロンチョコやら、色々な味がある。
悠太は、メロン味を手に取り、まるで教授のように話始めた。

「言ったろ?屋台の数も減ってさ、意外に無かったりするんだよ」
「チョコバナナが?」
「そ。昔当たり前だったモノがさ、今じゃ当たり前じゃないんよ」
「時代の流れ、ってやつか」

俺は自分でそう言いつつ、なんだかジジ臭いな、と思った。
田舎で育った時間が、なんだかとても遠い過去のように感じた。

悠太は手に持ったチョコバナナをかじるとほんの一瞬、寂しそうな顔をした。

「だから、当たり前なうちに食っておいた方がいいじゃん?」
「後悔しない為に、ってか?」
「まぁな。後悔先に立たず、据え膳食わぬはナントやらってな」
「なんか、微妙に違う気が…」
「それに、俺が結婚するんだぜ?世の中何が起こるか分からないっしょ?」
「ああ。まさに宇宙規模でナニカが起きてる証拠だな」
「俺の結婚は天変地異かよっ」

ゲラゲラ笑いながら、旧知の友は祭りを楽しんでいた。
俺は祭りなんかよりも、久しぶりに感じる心地よさを楽しんだ。

田舎だからか、悠太だけではなく驚く程旧友達の結婚率は高かった。
後悔先に立たず…そんな事、悠太に言われなくても分かってる…
嫌と言うほど…身に染みて分かってる……。そう心で呟き
最後のたこ焼きを口に運んだけど、なぜかタコが入ってなかった。

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2007/02/15/Thu 23:02:27   光速道路/CM:0/TB:0/



  境内。
商店街をひとしきり回って、悠太が言ったように
時代の移り変わりを感じた。遠足のお菓子を
友達と争うように買った駄菓子屋は銀行ATMになり
本屋は中古のゲームショップに、八百屋は大手の
コンビニチェーン店に、色々と姿を変えていた。

店を続けているところよりも、閉めているところのが
圧倒的に多かった。道路の舗装やアーケドの改修で
美化は進んでも、量産した人形のような商店街は
職人の魂が宿らない人形の眼と同じく、どこか虚ろだ。

「あ、そうだ。せっかくだから神社、行く?」
「へぇ。あの神社はまだあるんだ?」
「神主が妖怪だからなぁ」

商店街から伸びている路地を歩くと、少し小さめの
少年時代の俺たちにとっては遊び場だった神社がある。

俺たちのじいちゃんが子どもの時よりももっと前、平安時代から
建つ歴史のある神社。そんな歴史も、子どもにとっては
絵に描いたお金と大差無かった。

そんな場所も、地元で一番思い出深い場所かも知れない。
今でもハッキリと思い出す事が出来る、蝉の鳴く夕暮れの思い出。

境内までの石道を歩き、砂利道を抜け、五段程の石段を登り
賽銭箱の前に止まって賽銭を投げると、石段に腰を下ろした。

「こんだけ町並みが変わったのに、ここは変わらねぇな」
「俺らどころか、この町より古?い歴史ある神社だよ?」
「そうそう変わるわけないか」
「そうそう♪」
「賽銭ドロとか未だに」
「あるある♪」
「こんなボロ神社の賽…ってあんのかよ!」
「しょーが無いっしょ?まだまだ下級層は不景気なんだから」

一人暮らししてる時には得られなかった心の潤い。
悠太とのたわいも無い会話に、俺は癒されていた。

空に星が見え始め、外灯に明かりが灯る。
夜の闇が深まっていくのと比例して、少しだけ
聞こえていた子どもたちの声も膨らんでいった。

「こっちは、やっぱ夜空が綺麗だなぁ」
「なになに?ちょっとセンチになっちゃった?」
「あほ。単純に…ちょっと思い出に浸ってるだけだよ」
「まな…倉石の…こととか?」

その名を聞いて、心臓が一気に倍以上の脈動を打ったような
気がした。悠太に倉石との話をした事は無かったはずだった。

「な…なんで倉石の事なんて思い出し…」
「俺が…知らないとでも思った?」
「……」
「なんてな…」
「なんで、く…」
「トシ。俺さ…」

気が付くと、手は汗まみれだった。暗く迫ってきた
夕闇に怯える子どものように、少し震えていた。悠太が
口を真一文字に結び、次の言葉を放とうと口を開きかけたとき
遠くから祭囃子と共に、和太鼓の激しい音が耳に響いてきた。

「太鼓が聞こえ始めたって事は…」
「おい悠太。なんだよ?何か俺に…」
「いいじゃんいいじゃん、また後でな」

そう言うと、悠太は商店街の方に歩き始めた。
少し納得のいかない表情で悠太の後を追うと
視界の端に、小さな小屋のようなモノが映った。

「ミラー…ラビリンス…?」

そういえば…昔はこの辺りにお化け屋敷があったっけ…
思い出しただけなのに、なぜか小屋に向けて歩を進めた。
2007/03/04/Sun 00:49:54   光速道路/CM:0/TB:0/



  再会。
「トシ?どした?」
「え?ああ、いや」
「?ああ、あれか」

お化け屋敷の代わりに、一昨年辺りから
登場したというミラーラビリンス。壁一面に
万華鏡のような柄と、ピエロが描かれていた。
思い出のお化け屋敷は、役目を終えて消えたらしい。

この神社は、比較的大きめの木が多いせいか
外灯だけの明かりだと妙に薄っすらとしている。

神社という特殊な場所だけに、それこそ老若男女を
問わず、毎年深夜近くまで盛況だった気がする。

あの夏、初めて倉石と二人きりになった場所だった。
あのときの手の感触は、今でも鮮明に思い出せる。
体中の神経と血管が手の平いっぱいに集まったような
そんな感覚。自分の鼓動が全て伝わりそうな距離だった。

「あれ、流行ってんの?」
「ん?まぁ、ぼちぼちな」
「ふ?ん。ぼちぼちね」
「なんなら入ってみる?」
「いいよ」
「なんで?」
「お前が二十人も三十人も居たらキモいからな」
「あ、なるほどね。俺と同じ意見だ」
「おいっ」

バカな話をしながら、俺たちは神社を出た。段々と
人混みも増してきて、商店街が祭り特有の熱気を帯びてきた。

来た道とは別のルートを通って盆踊り会場まで歩く事にした。
東京でも夏祭りに出掛けた事はあったけど、やっぱり地元の
祭りが一番落ち着く。それはもちろん単なる気持ちの問題で
どっちが派手かと言えばもちろん東京だけど、愛がある
祭りだと感じられるのは、こっちの祭りだなと思った。

人の喧騒に負けじと、セミたちも自己主張を繰り返している。
セミにしても、東京じゃほとんど鳴き声を聴く機会は無かった。

逆にあんなコンクリートジャングルで鳴き声を聞けたら
嬉しい反面、それはそれでなんだか薄気味悪い。街には街の
町には町の、それぞれの特色があるから個として存在出来るんだろう。

こんなにも落ち着くのに、ほんの二日前までは、いつの間にか
無機質な森林に囲まれて居る自分になんの違和感も感じなくなっていた。

足早に行きかう人々に紛れて、足を踏まれても肩がぶつかっても
まるで気が付かない。立ち止まりせず、謝りもしないで
通りすぎていく人々に紛れた生活。そんな一日が普通になっていた。
それは、適応なのか堕落なのか…どちらにしろ、俺は変わった。

途中で見つけた焼きそばの屋台前を通り過ぎようとしたら、ビールを
飲んでいたらしい若者に、スーツを着た男が何やら説教を繰り返していた。

父親との揉め事か酔っ払いか。そのまま通り過ぎようとしたら、不意に
男が声をかけてきた。

「あれ!悠太じゃんか」
「おお、浩平じゃんか!もしかして見回り?」
「おう。こいつら、うちの生徒。ったく浮かれやがって」
「おーおー、バッチリ熱血先生してんじゃん」
「まぁな。ってこら!飲むなっての!!」

俺の知らない悠太の友達だった。大学の友達だろう。
悠太にも、俺の知らない時間が流れているんだと思うと
理不尽だけど寂しい気がした。俺だって悠太の知らない
時間を過ごしているくせに、自分勝手な感情だ。

「そういや、今日は嫁サンと一緒じゃないのか?」
「ん…ああ、幼馴染が久し振りにこっちに帰ってきてたからな」
「どうも。俺は安田浩平。大学の悪友」
「悪友言うな」
「あはは、やっぱり大学行っても悪いヤツだったんだな」
「お前らなぁ」
「あ、俺は飯塚明俊。15年来の悪友、ってとこかな?」
「悪友の先輩さんでしたか、これはどうもどうも」
「スキニシテクレ」
「ってあれ?なんだよ、結局嫁サンと待ち合わせてるのかよ」
「え?」

その時の悠太は、本当に驚いた顔をしていた。いきなり
宝くじが当たったような、総理大臣に任命されたような
人間が驚く瞬間の顔っていうのは、どんなときもそんな顔だ。
そして悠太の視線に合わせて振り返った俺も、同じ顔をした。

まるでアニメのように周囲の時間が止まったような気がした。
実際、止まっていたかもしれない。俺は呼吸をするのも
忘れたように、生暖かい風とセミの声だけを感じていた。

視線の先にいた浴衣を着た女性は、倉石真奈美だった。
2007/07/10/Tue 00:06:43   光速道路/CM:1/TB:0/



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