漆黒の斬撃

東京砂漠に生きる役者が、主に物語を書き綴るブログです。つたない文章ですが、お付き合い頂けたら幸いです。

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  【混沌、そして終焉なる産声・三歌】『刻まれる記憶』
僕は無意識にそう答えた。なんだかそう答えるのが普通だと
思ったから。よくよく考えて、学校で会ったのに
「おかえり」と「ただいま」は変だと思ったけど、でも
あの瞬間はそんなこと少しも思わなくて、それが普通だって感じた。


僕の父さんは、電子機器メーカーに勤める普通のサラリーマン。
母さんとは社内結婚。父さんの影響で小さいときから電子機器に
触れて育った。程度によるけど、壊れかけたテレビや電子レンジを
直すくらいなら出来る。パソコンなんて、絵本代わりによく触ってた。
だから自分の将来について知ったのも、他の子どもより早かったと思う。

『先天性死春期疾患』 通称?ZERO?

僕が、僕達が生まれながらに抱えている最低最悪の時限爆弾。
いつの頃からか全世界で突発的に、そして加速度的に患者が
増えて、今じゃほとんどの地域に蔓延してる発症率100%の病気。


「百合って、もしかしてその服で登校するつもり?」
「え?まさか。学校が始まったら着ないよ?」
「そっか…」
「なになに??もしかして十流って制服フェチ?」
「なっ!!ち、違うよ!!!」
「顔真っ赤にして、隠さなくてもいいんでしゅよ??」

そう言いながら、百合はスカートの裾を両指でつまみ、闘牛士の
ように僕の目の前でヒラヒラさせて裾を上げていった。段々と
見えてくる白い足に、言葉とは裏腹に僕は目を背けられないでいた。

「な?んね!残念でしたぁー☆ちゃんと水着着てるから♪」
「だ、誰も期待なんてしてないよ!大体百合が勝手に…」
「男の子はガヤガヤ言わないのっ」

昨日初めて出会った女の子なのに、もうずっと前からの
友達のような、家族のような、そんな感覚を百合に感じていた。

「十流はさ、こういうの無いの?」
「こういうの?どういうこと?」
「私のこのセーラー服みたいな」
「それは、例えば夢とか叶えたいこと…とか?」
「うん、そうだね」
「無くは…ないけど…」
「ZEROの…せい?」

僕が笑顔を忘れていた理由…百合が、来年に
着れるかどうか分からないと言ってセーラー服を
着た理由。全ての元凶はZEROにある。
二人で話しながら、プールサイドに座り込んだ。

「だってさ…来年になれば」
「死んじゃうかもしれないから?」
「……。友達だって…もうほとんど学校には来てないし…」
「でもさ、発症したとしても致死率は100%じゃないんだし」
「それはそうだけど…」


ZEROは、13歳に達すると【生】か【死】を選ぶ。
この恐ろしい奇病に…ZEROという名の死神に命を
奪われる確率は90%以上。まだ、なんの解決方法も
見つかってない。僕らは、ただ迫り来る【死】の恐怖と
戦うだけ。セーラー服を着たり、学校に来なくなったり。
そして僕は、生きる目的を失って、笑わなくなった。


「百合ってさ、泳ぐの好きなの?」
「うん。私、前世は絶対魚だよ♪」
「はは。そうかも」
「このままずっと泳いでいたいって思うもん」
「百合は赤ちゃんなんだろうね」
「え?それどういう意味ぃ?」
「知らない?羊水っていう液体」
「羊水?あ、赤ちゃんがお腹の中に居るときの?」
「そう」
「なるほどね。そういう意味かぁ?」
「疑似体験ってやつかな?」
「じゃ、私また赤ちゃんになろっかな」
「え?わっ!」

そう言って百合は、おもむろにセーラー服を脱ぎ始めた。
いくら下に水着を着てると分かってても、女の子の
着替えを見てるみたいでものすごく照れくさかった。

百合は制服を綺麗にたたんでプールに飛び込んだ。
あまりに勢いよく飛び込んだから、僕にも水しぶきが
かかって思わず声を上げた。水面が大きく揺れて
壁の異世界は今日もまた、グニャリと姿を変えた。


母さんが子どもの頃、夏休みには宿題がいっぱいあったらしい。
でも、僕には全くピンとこない。そんなにいっぱい宿題があったら
こんな、学校のプールで遊んだりなんて事、出来てなかったと思う。
そんな今の学校には、僕と百合しかいない。誰もいない教室は
なんだか何も入っていないおもちゃ箱みたいに、とっても
寂しそうだった。二学期が始まったら、おもちゃ箱のおもちゃは
どうなってるんだろ。僕は姿を取り戻し始めた異世界を眺めながら
百合が水をかきわける音を聞いた。一週間前よりセミの声が
段々と減ってきて、陽射しも少しだけ柔らかくなってきたような気がする。
空には月が白色に輝いて、夏が終わろうとしていた。
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2005/09/27/Tue 23:51:15   混沌、そして終焉なる産声/CM:0/TB:0/



  【混沌、そして終焉なる産声・二歌】『忘れられない笑顔』
「十流?風邪引いちゃうよ」

気が付くと僕は眠っていた。あの異世界に魅せられて眠りに
落ちていたみたいだ。目の前にはさっきまで水着姿だった彼女が
セーラー服姿で立っていた。

「え?ああ…僕寝ちゃったんだ…。」
「私が気が付いてよかったね。」

そう言って彼女は髪をかきあげながら笑った。さっきは水に濡れて
よく分からなかったけど、やっぱり彼女の髪は長く、背骨の
真ん中くらいまでありそうだった。胸元の赤いスカーフが
僕の顔に触れた。どうしてこの子はこんなに笑えるんだろう…。
来年の今頃はもしかしたらもうこんな事出来るかどうか
分からないのに…。僕は…もうずっと笑っていない。
コノセカイガキライダカラ…。

「ねぇ…」
「なに?」
「どうして…セーラー服なの?」
「ああ、これ?へへ。一足早くお母さんに買ってもらったんだ♪」
「どうして?」
「だって、来年これが着れるかどうか分からないでしょ?」
「……」
「だから一度着てみたかったんだ☆ずっと、憧れてたから…」

その瞬間、さっきまでずっと笑っていた彼女が、初めて物悲しい
顔をした。そっか…。やっぱり…彼女も怖いんだ…。無理に
明るく振舞ってるだけなんだ。

「私も一ついい?」
「え?何?」
「私は『ねぇ』じゃなくて『百合』だからね!」
「え…でも今日いきなり…」
「ハイ、次名前で呼ばなかったら家に帰さないからね?」
「ええ…なにそれ…。」
「5、4…」
「ちょ!なんでカウントダウンしてるの!?」
「3…」
「百合!………ちゃん…」
「百合でいいってば」
「……百合…」
「はいよく出来ましたぁ☆」
「百合って…なんか変だね…」
「プールに入らないで、木陰でボーとしてる十流だって十分変だと思うけど?」
「それは…」
「お互い変同士だね」
「だからって僕と百合を一緒にしないでよ」
「男だったら固い事言わないの♪」
「なんか僕、無茶苦茶理不尽な事言われてる気がする」
「気のせい気のせい」

僕と彼女の、微かな笑い声が、夏の声に混じって響き渡った。
彼女は飛びきりの笑顔で僕に微笑んでくれた。そのときの僕も、
きっと、笑顔だった思う。久しぶりに笑った気がした。

人は色々な事を忘れるけど、ずっと笑っていなくても笑い方を
忘れたりはしないんだって、百合は気付せてくれた。
そんな彼女と一緒に笑ったこの日を、僕は忘れられずにいた……。


どうして僕は生まれてきたの?なんの為に生きてるの?
なぜ百合と出会わせたの?どうして僕に笑顔を思い出させたの?
もしこの世界に神様が居るなら、僕のたった一つの願いを
叶えて欲しい。たった一度の、叶わない願いを…。
そんな思いをするようになったのは、もっとずっと後の事だった。


僕は翌日もなんとなく学校に行った。約束なんてしてないのに。
僕はまた、あの異世界に行きたかったのかもしれない。でも
プールサイドに百合を見たとき、微かに口元が笑った自分に
気が付いた。そんな僕を見て、百合は満面の笑みで呟いた。

「おかえり」

2005/09/06/Tue 02:50:27   混沌、そして終焉なる産声/CM:0/TB:0/



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