漆黒の斬撃

東京砂漠に生きる役者が、主に物語を書き綴るブログです。つたない文章ですが、お付き合い頂けたら幸いです。

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  ?朧?
年が明けて、新しい一年が始まった。
大晦日の出来事があって、俺は人生で一番
最悪の正月を迎えていた。年末に降った
大雪は溶け始めて、街は段々と普段の様相を
取り戻していった。が、俺はそれと反比例するように
次第に自分の殻に閉じこもっていった。そんな
俺を見かねて、後輩の由貴が俺に声をかけてくれた。

「先輩の落ち込んでる姿見てると…寂しいです…」

俺は、なんとか自分を奮い立たせた。
このままじゃ、社会人として後輩に
示しがつかないし、男としても失格だ。

確たる証拠を自分の眼で見たワケじゃない。
彼女には、何か止むに止まれぬ事情が
あったに違いない。母親の事もある。
何より、俺には任されたプロジェクトもある。
今は腐ってるトキじゃない、そう自分に
言い聞かせ、気持ちを切り替えた。

しかし、年が明けても、彼女は出社を
してこなかった。俺は毎日を闇雲に生きていた。

そんなある日、なんとなく気晴らしに街へ出掛けたとき
香澄を見た。俺の知らない男と、親しそうに食事をしていた。

香澄の親族にあんな男が居るなんて聞いた事が無い。
両親にしては若い。じゃあ…じゃああれは一体誰だ…?
あれが先輩の言っていた…よく会ってるという…男…?

噂じゃなかった。確たる証拠を自分で見てしまった。
俺は、二人が店から出てくるのを、待った。

「香澄…」
「あ…」
「どう…」
「ごめんね」

彼女はそう言うと、隣に居た男を急かすように
駐車場へと消え、車に乗り込んでその場を去っていった。
その翌日、彼女は長期で会社に休暇願いを出していた。

なぜ会社を長期で休む必要が…?俺と顔を
合わせるのがそんなに辛いから…?それとも
会社を長期で休まなきゃいけないほど
母親の状態がよくないのか…?だけど
それだったら上司が何か言ってくれるはず…。

なぜ?ナゼ?何故………

数日間、そんな自問自答を繰り返した。
だけど堂々巡りだった。真実を彼女から聞くまでは
どうにもならない、と思い、余計な事を
考えまいとして、何も考えないように
ひたすら働いた。自分の身体を自身で痛め
酒で誤魔化し、仮初めの時間を生き急いだ。

そして、プロジェクト成功を祝う会社の飲み会で
派手に酔った俺は由貴に介抱され…過ちを犯した。

「私…香澄先輩の代わりでも…いいですから…」

仕事に対する疲労と心の荒みが、後輩の…
いや、女性としての優しさに触れ、自分の弱さに負けた。

理性を無くした俺は、由貴を抱きしめてしまった。
酒に任せて、そのまま自分を見失うように。

でも、俺に香澄の笑顔を忘れる事は出来なかった。
一線を越える事は無かったけど、それでも
浮気をした事に変わりは無い。他の女性に
一瞬でも心を許してしまったのだから…。

あの時、顔を合わせたのに、何も連絡を
してこない彼女が分からなかった。
愛しいが故に、俺はどうしたらいいのか
分からなかった…。それからはただ
悪戯に時間だけが過ぎていった。

再び桜が咲きそうになり、会社は一年の
締め括りに追われていた。冬の寒さと
春の温かさが混在したある日、社内に張り出された
辞令には、香澄の退職が記されていた。

香澄は、俺の前から消えようとしていた。
空には薄黒い雲に望が遮られ、脆弱な光を
飲み込みそうな闇が、眼前に広がっていた…。

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2006/11/22/Wed 01:45:53   今宵、桜の木の下で/CM:0/TB:0/



  残された血。
「…めろ…やめろ…やめろぉぉぉぉぉ!!!!!!」

あの人に向かって、俺は叫んだ。何も出来なかった
自分の無力さに嘆きながら。空に遠雷が轟く夜、俺は
目の前で父上を殺され、母上は遠方の地に幽閉された。
残されたのは、まだ幼い妹と、憎悪という名の種。

「小僧…助かりたいか?」
「……」
「なんだ?恐ろしいのか?」
「!」
「いいぞ…そうだ、その眼だ!人に非ざるその眼で、俺を見ろ!!」
「なぜ…なぜ父を殺した!?」
「なぜ?覚えておけ小僧。今の時代、人を殺すのに理由など…」
「実の弟だろ!?」

一瞬、あの人の眼がくすんだような気がした。次の瞬間
豪腕と呼ぶに相応しいその腕を、俺の眼前に伸ばしてきた。

「やめろ!小夜に触るな!!!!」
「兄上!」
「父は守れずとも、妹は守る、か?」
「煩い!!!!!」
「笑止な…」
「っぐ!?」
「兄上!!」
「っがは!」
「このまま…首の骨を折ってやってもいいんだぞ?」

あの人は笑っていた。まさに、狂気…いや、狂鬼だった。
妹は、俺を助けようとして男に飛び掛かり噛み付いた。

「放せ!兄上を放せ!!」
「優しい妹に感謝するんだな、あにうえ」
「がっ!」
「兄上!!!!!!」

そのまま首をつかまれ投げ飛ばされた俺に
最早立ち向かう気力は残っていなかった。
駆け寄ってきた妹を傍らに抱き寄せ、なんとしても
妹だけは守ろうと思いながら、あの人の目をじっと見据えた。

「小僧…そのまま聞け」
「はぁ…はぁ…」
「今、この地…いや、この国は混沌の最中にある」
「……」
「だから必要なんだ。鬼と、魔王と呼ばれるような、絶対的な…力がっ!」

そう言うと、まるであの人の言葉に呼応するかのように
空には一筋の閃光が走り、刹那に巨大な轟音が鳴り響いた。
気が付くと遠雷が雨雲を呼び、やがて辺りは雨につつまれた。
あのとき…あの人は何を考えていたのだろう…

「忘れるな。お前の父を殺した、俺への悪しき感情を、その憤怒の憎悪を」
「……」
「今日からお前は、俺の部下だ。俺の下で働け」
「なっ!?」
「そして隙在らば、いつでも殺しに来い。無論、この命安くは無いがな」
「何を…考えている…」
「何も。全ては余興、俺がこの国を手に入れるまでの退屈しのぎだ」
「退屈しのぎ…だと…?」
「ああ。そうだ。俺が業を背負う為の、退屈しのぎだ…」
「なぜ貴様に…」
「拒む権利など…あると思うか?」

時折の雷光に煌く刃は、妹の喉下に突き付けられた。
雨音だけが、あの人へ反逆を犯し続けている。

「全ては、俺の掌の中だ」
「くっ…貴様に、人の血は流れていないのか!?」
「とうに流し尽くしたわっ!鬼となり、お前の父を斬った瞬間にな…」

そう呟き刀を握り締めると、香乃の噛み痕から血が流れた。
俺と同じ赤い色をした鬼の血は、そのまま雨に消えた。

「この優しき魂が大切なら、俺の命をとるまで、妹より先に死ぬなよ?」
「貴様に言われるまでも無く…俺は…生きる…」
「せいぜい腕を磨き、鍛錬に励むんだな小僧…いや、信澄」
「生きて…必ず我が手で、父の元へ送ってやるぞ!!悪鬼…信長っ!!!」


俺はあなたの為に華を咲かせよう…。あなたの為だけの華、血だまりの華を――――




2006/11/20/Mon 00:15:08   血だまりの華/CM:0/TB:0/



  ~弦~
あれから、何度か彼女を夕食に誘った。
最初は単なる憧れだった。それから色々と
彼女の話しを聞いて、彼女の人間性の
一部に触れているうちに、次第に彼女に
惹かれている自分に気が付いた。

ある種、尊敬の念に近い感情だけど
こんな気持ちを女性に抱いたのは始めてだった。

会社での彼女は、ほとんどアイドル状態で
腰の近くまで伸びた長めの黒髪、派手に
着飾らず、決して美人というわけではないけど
男女問わず周囲を和ませる笑顔、子どものように
笑うかと思えば、姉のように、時には母のように
みんなをたしなめてくれる、そういう存在だった。

そんな彼女を女性として意識し始めるのに
煙草を吸い終える時間さえ長いくらいだった。

街は早くもクリスマスムード一色で
ディスプレイやネオンが用意され
雪の降らないどんよりした空も
季節の訪れを告げていた。

「香澄先輩」
「ん?何?」

会社の近くのファミレスで食事を終え
二人で食後のコーヒーを楽しんでいた時だった。
ずっと気になっていたことを、聞こうと思った。

隣の席にいる大学生らしき集団が
あれこれ恋愛談義に華を咲かせていた。
オレンジ色のソファに座っている女性が
ストローでグラスをかき混ぜながら
ずっと喋っている。目の前に座っている
二人の男は、半ばけだるそうだった。

「あの、先輩ってホントは営業部…なんですよね?」
「…うん。そうだよ。今は経理の鬼だけどね」
「あははは、確かに」
「あ、そういう事言うんだ?へぇ?」
「え、いや、それはその…」

彼女は手元にあるコーヒーを一口飲んで
隣の学生たちのように友達の恋の話をし始めた。
そして、彼女の眼が、雰囲気が語っていた。

これ以上この話題に触れないで

と。俺もそれ以上何も聞かずに、彼女の
話を聞くともなく聞きながら、一緒に笑った。
俺のコーヒーは、冷め始めて苦味が増していた。

それからは、年末に向かってただただ忙しい
日々が続いた。年の瀬まで働き、仕事納めも終わり
迎えた大晦日の夜。どうしても自分の気持ちを
伝えたかった俺は、同僚たちに紛れて彼女と一緒に
市内にある大きな神社に参拝に来た。

屋台に並ぶ人たち。

除夜の鐘が鳴り終わり、世界が新しい年を向かい始める
喧騒の中、玉砕覚悟で彼女に気持ちを伝えた。
ほんの数秒背を向けた彼女は、少し顔を俯かせながら振り返り

「待たせすぎ…」

と答え、顔を紅くしながら、俺の背中に手を回した。
冬の寒さなんて感じないくらい、身体が熱くなった。

俺はこの時、絶対に彼女を守り抜こう、と
下弦の月に照らされる、彼女の瞳に誓った。
やがて冬の寒さは、春の穏やかさを運んできた。

「んっ?!桜!!!キレいだねぇ?」
「去年は入社したばっかりだったから余裕無かったけど
 この辺りにこんな場所があったんですね」
「そ。結構穴場なんだよ?」
「みたいですね。あんまり人も居ないし」

会社から少し離れた所にある小さな公園。近所の
家族連れくらいしか来ないけど、桜は見事な物だった。

久しぶりの二人だけでの外出だった。彼女の母親は
身体が悪いらしく、長女である彼女が仕切らないと
いけないからだ。毎日職場で顔を合わせているけど
久々に外で見た彼女は、幾分痩せているように思えた。

「ねっ」
「え?」
「今年の夏って、休み取れそう?」
「え?あ?…はい。有給はまだあるし、多分大丈夫ですよ」
「そっか♪」
「どうしてですか?」
「私もね、夏は少し自由になれそうだから、どこかに
 旅行でも行ってゆっくりしたいな、って思って」
「へ?」

思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
まさか彼女からそんな誘いをもらえるとは
思っていなかった。キス以上の進展は特に
無かったけど、だだ彼女とは同じ時間を共有
出来ていれば、俺はそれで満足だった。

初夏の太陽が肌を焼き、彼女と付き合い
初めて半年程経った頃、俺が学生の頃に
住み込みで働いていた事のある長野の
ペンションに来ていた。もちろん、二人きりで。

「でもなんかちょっと意外かも」
「え?何がですか?」
「だって、接客とか苦手そうなんだもん」
「香澄さん、それスゲー失礼じゃないっすか?」
「あははは、冗談冗談♪」
「冗談に聞こえないんすけど…」
「ほらほら、早く荷物置いて、散策散策♪」

近くの山道を一通り散策して、湧き水のある水辺で
散々戯れ、気が付くと山は橙色のコートを纏っていた。

「夕日…眩しいね」
「あ、はい…」
「そろそろ…戻ろっか?」
「そう…ですね」

彼女に促されて、俺達はペンションへと戻った。
陽が落ち初め、静けさが増してきたせいで
俺の心音が彼女にまで聞こえているんじゃ
ないだろうか、と思うくらい緊張していた。

夕食を終え外に出ると、空には乳白色の月が輝き
星々は手が届くかと思うくらいの距離にあった。

ここで働いていた頃、この夜空をこんな気持ちで
見ることが出来るなんて妄想はしていたけど
実際に叶うなんて思ってもいなかった。夢じゃ、ない。

ふと部屋の中を覗くと、天の川の輝きにも負けない
極上の一等星が濡れた髪を乾かしながら、戻ってきた。

「じゃあ、寝ましょっか」
「…」
「電気…消しますよ…」
「…」
「香澄さん…あの…俺…」

彼女は俺の言葉を遮るかのように、目の前に立った。
湿った空気に乗って漂ってきた、微かなシャンプーの香り。
脳震盪を起こして倒れそうな、甘い匂いだった。

「星、綺麗だね」
「…はい…」

彼女の手をそっと握りながら言った。

「俺…先輩とここに来れて…よかったです…」
「うん…」
「ここで働いてる頃、いつか、こうして彼女と
 ここの空を見たいって思ってました…」
「…」
「この空を…先輩と…」

言いかけて、俺は握った手に少し力を込めた。
鼓動がさらに加速していくのを感じながら。

「香澄さ…香澄と、見る事が出来てよかった」
「…ありがとう…」

握った手を引くと同時に、震えた声で、ありったけの
気持ちを絞りだすように彼女の名を呼び、華奢な
彼女の身体を包むように抱きしめ、ベッドへ倒れ込んだ。

夜の静寂も、蝉の声も、風の音さえも聞こえず、
俺の耳には自分の心音と、彼女の息遣いしか聞こえなかった。


それから仕事も私生活も、ずっと順調だった。
だけど、太陽の熱が冷め始め、木々が紅く
なり始める頃、彼女はよく会社を休むようになった。
それからほどなく、俺は先輩からよからぬ噂を聞いた。

「香澄の奴、長身で眼鏡かけた30代後半くらいの男と
 最近よく一緒に居るらしいぞ。会社休んで何してるんだか。」

俺は彼女の事を全く疑ってはいなかった。だけど
会社を休みがちになって、会社に出てきても
あまり俺と顔を合わせようとしなかった。
そんな彼女に少なからず疑念を抱くようになっていた。

肌を刺すような風が吹き、街が忙しなくなってきた。
微かな疑念を抱きながらも、答えが怖くて、彼女に
真実を問い正す事が出来ないでいた。彼女との事を
振り払うかのように仕事に没頭していると、功績を
認められたのか、年明けから始まる大きなプロジェクトに
いつの間にか補佐役として関わる事になったいた。

正式に辞令が下りた頃、ようやく彼女と二人で
食事が出来る時間を作る事が出来た。一年で
恋人同士が一番浮かれる、クリスマス。

部屋で食事を終え飲み物を買いに外へ出ると、夕方から
降り出した雪で街は完全に白銀の世界へと変わっていた。
二人でゆっくりと道を歩くと、雪を踏む音が耳に心地よく響く。

「よかったね、補佐官殿♪」
「ちょ、止めて下さいよ。くすぐったいなぁ?」
「そう?その割にはニヤケてるけど?」
「ええ、まぁそりゃ…嬉しいですから…」
「素直じゃない子には…ほら!」
「わ!!冷っ!!!」

彼女は、無邪気に笑いながら大量の雪を背中に入れてきた。
灰色の雲に覆われ、久々に大雪の降ったクリスマス。

二人で足跡を作りながら、仕事の話を彼女に話した。
買ってきたお酒を飲みながらケーキを食べて、今までの
不信が嘘だったかのような時間が、過ぎていった。

そして、お互いの肌の温かさを何度も確かめ合うように
夜は更け、布団の中で彼女は、俺の肩で笑顔を浮かべながら

「今年も除夜の鐘、一緒に聞こうね」

と静かに呟いた。俺は、彼女を信じる事にした。
隣で笑う彼女の眼は、一点の曇りも無い眼だったから。
しかし、その年の大晦日の夜、俺の隣に彼女の姿は

なかった。

除夜の鐘が、空と大地と心に鳴り響いた。
まるで、何かが瓦解する音のように。
2006/11/14/Tue 01:44:24   今宵、桜の木の下で/CM:0/TB:0/



  胎動する深淵。
「ん…?なんの音だよ…どっから鳴ってんだ…?」

翌朝、俺は聞きなれない着信音で目が覚めた。
それは、玄関の方から鳴り響いていた。

「なんで玄関から…着メロ……?」

よくよく見ると、下駄箱の上に見慣れた携帯があった。
それは、昨日家を飛び出した茜の携帯電話だった。

「バッカヤロ…あいつ…携帯置いてったのかよ…」

俺が、大学入学祝いに買ってあげた携帯電話。
旅行先で買ったストラップやキーホルダーが
ひしめき合い、携帯よりも重量を増していた。
重くないか?って聞いたら


『てっちゃんとの思い出の重さだもん♪』


無邪気に笑う茜に、つられて俺の顔もほころんだ。
前向きで、真面目で、向上心があって、だけど
負けん気が強い、努力家の、ちょっとドジな…俺の彼女。

自分が年下だっていうことを、少しコンプレックスに
感じていた節はあったけど、なるべく茜にはそれを
感じさせまいとして振舞った。だけど、やっぱり
女の子っていうのは敏感なもので、すぐにバレた。


『その気遣いが、逆に私は寂しいかな…』


俺は彼女の事を考えている【つもり】になっていた
だけだった。だけど、そういう事があって、俺たちの
仲はもっと深まったような気がした。そんな健気な
彼女に、俺はいつの間にか甘えていたんだ…。

なんて、感傷に浸ってる場合じゃなかった。
これじゃあ消息が全く分からない…しまった…
こんなことならすぐにあとを追いかけるんだった…。

後悔しても始まらない。とりあえず、携帯を
見たら何か手がかりがあるかもしれないし
最悪、由貴ちゃんの連絡先が分かるだろうから
由貴ちゃんに事情を説明して、一緒に探してもらおう。
そう思い携帯を開いたら、その拍子にボタンを
押し、受信していたメールの画面を開けてしまった。

「……そっか…だから茜のやつ…」

俺は、そのメール画面を見て愕然とした。
メールは、由貴ちゃんからのお祝いメールだった。
昨日は、俺たちが付き合いだして一年目の
記念日。同時にそれは、茜の誕生日。

忙しさで忘我していたとはいえ、完璧に俺のミスだ…。
謝ろう。許してもらえないだろうけど謝るしかない。
記念日なのに…誕生日なのに…悪気が無かったとはいえ、
茜に最低の態度をとった…。悩んでてもしょうがない。
一刻も早く由貴ちゃんに連絡しよう。彼女の携帯の
電話帳を開いて、由貴ちゃんの電話番号を探した。

「もしもし?由…」
「どちらさまですか!?」
「あ、えと、哲平だけど…」
「哲平さん!」
「え、あ、うん。ちょっとワケあっ…」
「あの!!!今、どこに居ますか!?」

電話の向こうの彼女はひどく慌ててる様子だった。
俺からの電話が、そんなに驚いたんだろうか。

「え?いや、今自宅だけど…」
「すぐ白百合総合病院まで来て下さい!!!」
「????」
「…かねが…茜が!!!!」

由貴ちゃんが、涙混じりに叫んだ。
茜が、意識不明の重体だ、と………。
2006/11/10/Fri 23:18:05   十六夜~月下天真~/CM:0/TB:0/



  後悔という名の胎動。
「てっちゃんの…バカ……」

靴を履く手を一瞬止めて、携帯を
下駄箱の上に置いた。私の覚悟。
触れたドアノブの冷たさに少し驚き
風で少し重い扉を開けた。

階段を足早に駆け下り、近くの公園まで来て
重い足取りと乱れた呼吸を整えながら、
ようやく落ち着きを取り戻した。

「なにやってるんだろ…私…」

自分でも驚くほど衝動的に部屋を飛び出した。
さすがの私も、我慢の限界だったらしい。
だって、今日は…あ、もう…今日が終わちゃった。
公園の時計を見てから、改めて自分の腕時計を見た。

彼、栗原哲平とは、付き合って一年。そう、ちょうど一年。
五歳年上の彼。私はまだまだ子ども。もうすぐ
就職活動が控えてる、ただの、平凡な大学生。
彼は、大手旅行代理店に勤める、敏腕プランナー。

出会ったきっかけは、高校ニ年生の修学旅行。
修学旅行の時に見た彼(の仕事振り)に惹かれて
偶然の再会を期待しながら、親友の由貴と
一緒に企画した卒業旅行をお願いする為に
彼の職場へ押しかけた。

ホストクラブよろしく、若気の至りというか
店に入っててっちゃんを見かけるなり
自分でも驚くくらいの大声で名指しして
隣に居た由貴に後でいっぱいお説教されたっけ。

クスクスという笑い声が聞こえるくらいに
バカにしたような女性社員の視線など
おかまいなしに、私はてっちゃんに
卒業旅行の計画をお願いした。

てっちゃんは、熱心に私たちの話しを聞き
最高のプランを立ててくれた。その後、何回か
お店に立ち寄って最終的な打ち合わせを終えて
お店を出ようとしたとき、私を呼びとめて


『旅行が終わったら今度は遊園地、ってのはどうかな?』


そう言うと、てっちゃんは私に自分の名刺をくれた。
手書きで書かれた、私用の携帯番号の載った名刺を。
意外と積極的な人だなぁってその時は思ったけど
実際にプライベートで会うと、かなり奥手な人だった。

卒業旅行を終え、大学が始まるまでの春休み中に
てっちゃんの誘い通り、遊園地に出かけた。
二人で入場門をくぐって、ジェットコースター乗って
ソフトクリーム食べて、観覧車に乗って、やっと手を繋いで…

一年半くらい友達として付き合って、一年前の今日…
この公園で、私は【お客様】から【お友達】を経て
晴れて【彼女】になった。

由貴や他の友達にも色々と言われた。
五歳も年上の人とうまくいくわけないって。
そんなこと、由貴に言われなくても分かってた。
だけど、好きになっちゃったんだもん……

私は、その歳の差を埋めよう努力した。
だけど、そんな私を気遣っててっちゃんに
優しくされるとそれはそれでなんだか辛かった。

てっちゃんの負担になるのは嫌だった。
てっちゃんは不器用だからすぐに顔にでちゃうし。
その不器用な優しさがイイトコロでもあるんだけど。

私が初めててっちゃんの家にご飯を作りに
行ったとき、私はまだ料理に慣れてなくて
出来は最悪だったのに


『料理はさ、やっぱ愛情こもってると違うね!』


そう言って、ちょっと涙目で笑いながら全部食べてくれた。
あんなに…いっぱい怒って家を飛び出したのに…
やっぱり好きなんだなぁ…てっちゃんのコト…。

でも今日はもう戻らない…。その為に、携帯も
置いてきたし…もしてっちゃんから電話がかかってきたら
絶対に帰っちゃいそうだし…。携帯…気が付く…かな…

湿った強い風が、心だけではなく身体も冷やす。
足元の紅葉を眺めていると、頬に水滴が流れた。
次第に水滴は幾粒も落ちて、地面を濡らし始める。
袖で頬を拭い、私は公園の入り口へ歩いた。

今夜は由貴の家に行って…もう一回、ちゃんと泣こう…
2006/11/10/Fri 23:16:26   十六夜~月下天真~/CM:0/TB:0/



  ?朔?
『今宵、桜の木の下で、あなたを待っています』

手紙にはそう書かれていた。
この手紙を見るのは、もう何度目だろう。
涙でところどころ滲んでいる。

この手紙をもらったのは八年前。
まだ会社に入りたてで、色々ミスもしたけど
仕事そのものはやり甲斐もあるし
それなりに充実した日々だった。

差出人の名前は香澄。名前負けしない
透明感のある人だった。俺よりも
三つ年上の、事務職の人。新人同然の俺を
彼女は温かい言葉で支えてくれた。
今でも、彼女の事は昨日のように思い出せる。


晴天が、空を我がモノ顔ですっぽりと覆い、陽光が
差し込む窓辺の席から、彼女が僕に声をかけてきた。

「ほら、そんな顔してるとまた部長に怒られるよ?」
「いいっすよ、別に」

俺は席に戻るなり、上司からの叱責に凹んで
むくれていた。彼女にせっかく声をかけて
もらったのに、そんな言葉しか出てこなかった。
そして彼女は、おもむろに俺の頬を両手で掴んだ。

「ね、痛い?」
「!?」
「痛くないの?」
「いふぃなりふぁにふるんでふゅか!」
「あ、怒った?」
「離して下さいよ!」

俺は彼女の手を強引に振り払った。
彼女の行動の意味が全く分からなかった。
つままれた頬は微かな痛みが残った。
彼女の手の、僅かな温もりとともに。

「香澄さんも、俺を馬鹿にするんですか!?」
「するよ?」
「!」
「だって、そんな顔してても仕事の邪魔なんだもん」
「俺だって好きでこんな顔してるわけじゃないですよ!」
「そう?だったらなんでそんな顔してるの?」

彼女は俺を真っ直ぐに見ながらそう言い放った。
俺は、答えに困り、彼女の目を直視出来なかった。

「なんでって…それは…」
「自分のミス、でしょ?」
「……」
「だったら、自分の力で笑えるよね?」
「え…?」
「ミスをして落ち込むなんて、誰でも出来るんだよ?」
「…」
「でも、笑う事も出来るんだから」
「…」
「今のミスより明日の成功、でしょ?」
「香澄さん、言ってる事がよく分からないですよ。それと…」

すると彼女は、今度は俺の鼻をつまんだ。

「はい、私のお説教終了?♪」
「???」
「あれ?もう落ち込むの止めたの?」
「え?あ…」

いつの間にかモヤモヤした気持ちは消えていた。
まさに狐にでもつままれたような気分だった。

「さて、と。今日のお昼は何にしようかなぁ?」
「香澄さん!!」
「ん??」

背伸びをしながら去ろうとした彼女に
自分でも驚くほどの大声で声をかけた。
振り返った彼女は、数秒前まで俺の
目に映っていた女性とは、まるで別人のように
子どもの笑顔を浮かべていた。

「あ…えと…カレー!好きですか!?」
「私が作ったカレー以外ならね」
「インドとタイ、どっちがいいですか!?」
「お☆そうきたかぁ?じゃあタイかな♪」
「失敗した書類、速攻で終わらせます!」
「頑張ってね」
「はい!」

なんだかよく分からないけど、今までに
感じた事の無い気持ちだった事は間違いない。
俺は晴れやかな気持ちで、仕事を片付けた。

三度目のデートの時、食事をして、カフェで
談笑しながらこの時の事を話していたら

「私、本当は辛いモノって苦手なのよ?」

そう言いながら、彼女は紅茶のカップを手に取り
あの時と同じ目を俺に向け、いつもの
悪戯っぽい笑顔で、微笑んでいた。
俺はその笑顔を見て、彼女に二度目の恋をした。
2006/11/08/Wed 23:36:49   今宵、桜の木の下で/CM:0/TB:0/



  晩秋が呼ぶ後悔。
「だからなに怒ってるんだよ!」
「そんな事も分からないから怒ってるの!!」
「んだよそれ!ワケわかんねぇ…」
「もういい!!バカ!!!!」

そう言うと、彼女はまるで雑草を
引き抜くように、カバンを床から拾いあげ
鋼鉄の扉の前で一度立ち止まったのか
走り去る音が不意に聞こえなくなった。

扉が開き、湿った風を感じて玄関を見ると
すでに、扉の前に彼女の姿は無かった。

ワケが分からなくなんて無かった。
間違っているのは、絶対に俺だ。
ほんとに、ごく些細な事だった。

だけどタイミングが悪かった…というのは
言い訳に過ぎない。行楽シーズンが迫り、
抱えている仕事が忙し過ぎて、ここ最近は
ずっと茜をほったらかしにししまっていた。

そんな俺を気遣うように、茜は献身的に、
優しく接してくれた。不甲斐無い、と思いつつも
どうしても溜まったストレスを茜にぶつけがちに
なっている自分に嫌悪して、それが余計に
ストレスになっていくのがもどかしかった。

今日は、久々に茜が家に泊まりにきて
ろくなモノを食べていない俺に
手料理を振舞ってくれると言って
色々頑張ってくれていた。

それなのに、俺は言ってはならない
一言を、茜に言ってしまった。


『就活で疲れてるのによくやるよねぇ。見返りは何?』


ほんの、軽い気持ちで、もちろん
冗談のつもりで言った言葉だった。
だけど、茜にしてみたら、それが
スイッチになったようだった。

一人、茜の居なくなったリビングで
テレビを見ながら、グラスを傾ける。
荒れる各地の映像とともに、カッパ姿の
リポーターが叫ぶお決まりの台風情報。

茜が気になって玄関へ向かおうと思ったが
今会ってもきっとダメだ、明日きちんと謝ろう。
そう思って、グラスに残った酒を氷ごと
口に流し込み、そのまま眠る事にした。

ベットにもぐりこみ、電気を消すと
酔っ払った若者の集団の騒ぎ声や
サイレンの音、それら街の喧騒に混じって、
時折届く風の哭く音が、少女の
泣き声のように…聞こえた気がした。
2006/11/05/Sun 23:13:24   十六夜~月下天真~/CM:0/TB:0/



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