漆黒の斬撃

東京砂漠に生きる役者が、主に物語を書き綴るブログです。つたない文章ですが、お付き合い頂けたら幸いです。

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  満月が照らす悪夢
「茜…嘘だろ…なぁ…」

全力で病院に向かって走った。距離なんて関係なかった。
電車やタクシーに乗る事なんて思い浮かばないくらい。

茜は、由貴ちゃんの家に泊まりに行こうとしていたらしい。
由貴ちゃんは公衆電話から茜の電話を受けて、声の様子から
何も聞かずに了承をし、携帯を持っていない茜を待つ事にした。

だけど、茜が居た公園から由貴ちゃんの家まで一駅しか離れて
いないのに、茜が一時間経っても来ないのを不思議に思い
小雨も降りだしてきたから心配になり公園まで向かったらしい。

そして、公園には物凄い人だかりと、救急車が止まっていた。
人混みをかき分けた由貴ちゃんの目に飛び込んできたのは
大量の血の海と、ガードレールにぶつかったトラックと
まるで生気の無い顔をした、親友の姿だった…。

由貴ちゃんは動揺をしながらも事情を説明して、救急車に
乗り込み、とりあえず茜の両親に連絡を取った。一命は
取り止めたものの、大量の出血と雨の冷たさで、意識不明の重態。

由貴ちゃんは、消え入りそうな声で昨夜の出来事を丁寧に
説明してくれたが、未だに気持ちが落ち着いていないようだった。
もちろんそれは俺も同じだった…。あのとき…追い掛けていたら…
携帯に気付いていれば…あんな一言を言わなければ…
鎖で全身を縛られ地中に引き摺り込まれるような後悔に襲われた。

「ごめんなさい!!」
「あ、いえ…」

こんな時間に紙袋を持って病院に居るくらいだから
見舞いに来た女性だろうか。病院の入り口でぶつかった
女性に一言謝り、そのままカンファレンスに急いだ。

「あの!深夜に…救急車で運ばれてきた、大学生くらいの…」
「南条茜さんですか?」
「はい!そうです!!」
「ご家族の方ですか?」
「あ、いえ…あの…彼氏です…」
「彼女はまだ…面会謝絶の状…」
「哲平さん!!!」

そう叫んだのは由貴ちゃんだった。彼女の服は
雨に濡れ、袖口や胸の辺りが赤く滲んでいた。

「由貴ちゃん…」
「茜…面会謝絶で…」
「うん…今…聞いた…」
「茜…血が…トラックで…」

両親の手前だったからなのか、我慢していたであろう涙を、俺の前で流した。
皮肉だな…彼女の涙を見て、平静を取り戻した。だけど、小さな身体を震わせ
泣きじゃくる彼女を、そっと抱きしめる事しか出来ない自分の無力さに崩れそうだった。

茜…大丈夫…だよな…?また…俺や由貴ちゃんに…
お前のバカみたいな笑い声…聞かせてくれるよな…?
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2006/12/30/Sat 23:07:53   十六夜~月下天真~/CM:0/TB:0/



  ?望?
仕事にも行かず、俺は完全に闇の中に居た。
例の公園で、二度目の桜を見る事なく
春が終わろうとしていた。窓から見える
桜吹雪が俺には本当の吹雪のように見えた。

出口の無い迷路にいるような感覚だった。
ただただ、息をして、気が付いた時にだけ
食事をして、たまに窓の外を眺める、そんな
生活を続けていた。そして、梅雨特有のねとつく雨が
降る夜に、見知らぬ番号から電話がかかってきた。

「はい…」
「…」
「もしもし…」
「…」
「香澄か!?」
「突然の電話…すいません」

香澄によく似た声だった。俺は動悸が
激しくなるのを抑えて、携帯を握り締め、声を出した。

「香澄!一体どうしたんだよ!?」
「すいません…私は香澄ではありません」
「???変な冗談止めろよ!」
「私は、香澄の母です…」
「香澄の…お母さん…?」

動悸はまだ続いていた。なぜ香澄の母親が
いきなり俺に電話かけてきたのか
皆目見当もつかなかった。

「あの…どうして俺の携帯に電話を…?」
「事情を簡単に説明します。落ち着いて聞いて下さい」

全てを聞いた。全てを知り、全てを悟った。
俺は、弾かれた様に部屋を飛び出し、降りしきる
雨の中、香澄の母親に教えられた場所へと走りだした。


「香澄…」
「おがあん…から…きひたんらね…」
「うん…」
「もう…せっかく…かくご…きめへたのに…」
「ごめん…ごめん…俺…俺…」
「あのこに…だいてあげれなくてごめんねって…」
「香澄…嫌だ…嫌だよ…香澄!」
「あひがと…ね…」
「か、すみ…?かすみ…香澄!!!!!!」

耳に刺さる単調な心電図音と
嗚咽混じりの慟哭が病室に響いた。
外は、相変わらずの雨だった。


俺たちが出会ったときから、この別れは決まっていた事だった。
香澄だけが、そのジレンマと戦っていたのだ。俺が抱いていた
悩みなんかよりもずっと大きく、深い闇の中で。

病室を出たあと、香澄の母親から、香澄が残したものを
二つ受け取った。俺宛に書いてくれた手紙と
二人の愛の証である、小さな命。母親の死に際に生まれた
その小さな命は、今、この世の全てを知ろうと
水晶のような目を見開いて、俺の事を見つめていた。
受け取った手紙には、乱れた字でこう綴られていた。


こんな形になっちゃって…本当にごめんね。
 この手紙を読んでるって事は、きっと…私は
 もう生きてないんだろうね…。お母さんが
 なにもかも、全部話した後なのかな…。本当は
 全部隠したまま、恨まれたまま逝こうと思ってるけど、
 この手紙をどんな気持ちで読んでくれてるのかな…
 
 傷付くのは分かってるから、絶対に恋なんてしないって
 決めて、最後の我侭で仕事も行かせてもらって
 結局病気のせいで、満足に働けないし、会社を
 休みがちになっちゃうから事務の仕事になったけど
 そのお陰で、私は最高に幸せな日々に出会えたよ。
 でも嬉しい気持ちと悲しい気持ちがごちゃ混ぜの
 毎日はちょっと辛かったかな(笑)
 
 昨日の男の人は、私の心臓病の主治医の方です。
 先生に、産婦人科に付き添ってもらった帰りでした。
 心臓の事も…赤ちゃんの事も…黙っててごめんね…。
 余計な心配や負担をかけたくなくて…。本当は
 クリスマスの日に、全部話そうと思ったんだけど…
 やっぱり私一人の胸に閉まっておこうと思って
 母さんにだけ相談して、子どもは母さんに
 育ててもらうつもりでした。ダメな母親だね…。

 願わくば、今年の春まで生きて、一緒に桜を見たいな。
 もし、私が生きていたら、一緒に見てくれますか?
 
 私は去年と、同じ場所、同じ格好で待っているから
 赤ちゃんと一緒に見ようね。あなたの事が、本当に大好きです。
 
 【今宵、桜の木の下で、あなたを待っています】
                                                 香澄
                               

日付は、あの日、見知らぬ男と一緒に居た
香澄を見た日の翌日だった。手紙を読み終えた
俺は、再び激しい嗚咽を虚空に吐き出した。

涙が止まらなかった。病院だということも忘れ
壊れた人形のように、一人で泣き狂った。
どこまでも浅はかで、自分勝手で、香澄の
苦しみを、何一つ分かってやれなかった
自分自身を、消してしまいたいほど、呪った。

香澄の心臓病は、極まれな確率で発症し、
成人を迎えた後は、5年?10年以内には致死率が
90%以上という先天性の心臓病だった。
心臓のポンプとしての役目が失われはじめ、
最終的には臓器はもちろん、脳へも血が廻らなくなり
色々な障害をも引き起こす病気だった。

そんな身体でも香澄は、なにより自分自身に負ける事なく
精一杯に『今』を生きようとしていた。だからこそ
身体に負担のかかる出産も本当は避けるべきだったが
彼女は主治医の先生にこう言ったそうだ。

「死ぬ事が分かっている命よりも、生まれてくる事が
 分かっている命を大切にしたいんです、私は」

香澄は自分の死を憂う事なく、生まれてくるであろう
小さな命の生を慶ぶ、最後まで気丈な女性だった。

俺は、香澄に対する全てに後悔をするよりも、香澄が
俺に残してくれた、この小さな命を、今度は全力で守り抜こう。
それが俺の、香澄にしてやれる最後の愛の証だと思った。



それから、娘と共に桜を見て、蝉の声を聞いて
紅色の木々に囲まれ、白銀の世界を踏みしめた。
そんな一年を幾度か重ね、気が付けば俺は30歳を迎えていた。

風は穏やかに、空に輝く望が、辺りを照らしていた。
鮮やかに咲き誇っていた、遅咲きの桜の木々は、
また新たな花へと姿を変えるため、眠りについていた。

何度も訪れようと思ったけど、弱い俺はいつまでも
ここに来る事が出来きなかった。だけど、娘の言葉で
ようやくこの公園に立つ事が出来た。

俺は右手に小瓶を、左手に小さな手を握り締め
ポケットから手紙を取り出し、娘の前で泣きながら
一人、八年前の戻りえぬ時間を懐古していた。

「お父さん!」
「ん?」
「どうしたの?どこか痛いの…?」
「あ、ああ大丈夫だよ。目にゴミが入っただけだから」
「今日、撒くんだよね?」
「ああ。撒くよ」
「来年、ちゃんとお母さんに会えるかなぁ?」
「会えるさ。さくらが教えてくれたんだろ?」
「うん!灰はね、植物の栄養になって花を咲かせるんだよ!」
「そうだよな」
「だから、来年お花が咲いたら、お母さんにも会えるよね?」
「ああ、会えるさ。きっと…会える。」

来年の今日、俺は必ずまた来るから、だから待っててくれよ?
二人きりじゃないけど、同じサクラだから構わないよな?
この公園の桜になって、大きくなったさくらを見てやってくれ。
じゃあ、今度は俺が、来年の君にこの言葉を送るよ。




『今宵、桜の木の下、あなたを待っています』




風は穏やかに優しく、空は丸く悠然と、辺りを包んでいた。
冷たさの残る夜風が吹き、小瓶の灰を風に乗せると
散り際の花びらがひらひらと舞い、少女の手の中に

そっと…包まれた。
2006/12/21/Thu 00:20:21   今宵、桜の木の下で/CM:0/TB:0/



  憎む血。
血の匂いが…したような気がした…。
気のせいか。ここのところ稽古と戦が続いて
きっと疲れが溜まっているのだろう…

あれから五年。決して忘れる事の出来ぬ一夜。
何もかもが変わった日。奴が言うように、力も
付けた。体躯も整った。この五年で、奴の
行動も、それとなく読めるようになった。だが…

「信澄様」
「なんだ?」
「お館様がお呼びです」
「こんな早朝だが、どうせ火急ではないだろう?」
「ええ、私もそう思います」
「いつもの戯れ、か」
「ですが…」
「中身は私より幼き方だからな。些細な事で激昂しかねん」
「これで私の首も守られます」
「仁吉、殿にはすぐに行くと伝えてくれ」
「は。では」

寝起きの悪い夢を見て、ひどい寝汗をかいていた。
仁吉に呼ばれ起き上がると、刺すような冷気が
身体を覆った。洛陽が早くなり始め、いつしか
朝には氷が張るような季節になっていた。早いものだ。
着替えを済ませ、廊下を急ぐと彼を見つけた。

「明智殿」
「おお、信澄殿。そなたも信長様に?」
「でなければこんな早朝に部屋は出ませんよ」
「確かに。何用かは…」
「知る由もありません」
「だろうな…。しかし、なんだと思う?」
「それが分かれば、私は易者にでもなりましょう」
「うむ、それもいいかもしれんな。そなたに剣は似合わん」
「私が刀を捨てれば…首が一つ落ちましょう…」
「いや…済まぬ…」
「いえ…」

俺たち兄妹が、織田の縁者だと知る者は、父の側近だった
柴田殿を含め、前田殿、木之下殿、明智殿、そしてお農様。
それ以外の者は「殿の気まぐれ」で拾われた兄妹だと思っている。

実際そう思われていた方が、城内では過ごしやすい。
父上は、謀反人の烙印を押されている。その嫡男が
生きていると知れば、例え奴が許しても、家臣の
誰かが俺たちを生かしてはいないだろう。それは
この五年でよく分かった。奴はうつけだ、うつけだと
言われているが、その行動は全て計算されているものだ。
並の者には理解出来なくとも、俺にはそれが、分かる。
吐き気がするほど憎いが、織田の血の成せる業なのか…

「おお!お二人とも、こんな早うから済まんな」
「柴田殿が謝る事ではありませんぞ」
「それで、殿はどちらに?」
「わしが知りたいところじゃ。何処にも見当たらん」
「全くあのお方は…」
「ま、そのうち出てくるじゃろうて。がはははっ」

笑っている柴田殿の目が動いていないのを
俺は見逃さなかった。勇猛な人だが、この人は
最後まで父を守ってはくれなかった…。

三人で呆れていると、遠くから奴の声が聞こえた。
陽が昇りはじめ、凍った地面がパキッと音を立てた。
2006/12/19/Tue 01:54:33   血だまりの華/CM:0/TB:0/



  深淵に浮かぶ満月
「そっかぁ…哲平さん、最近忙しいんだ?」
「うん。時期が時期だし、しょうがないけどね」
「でも、それで茜に冷たいって、ちょっと酷いよね~」

Tシャツ姿の人も減り、長袖の人が多くなってきた
人混みを見ながら、カフェで由貴に愚痴をこぼしてた。

大学のすぐそばにある、お気に入りのカフェ。何かあると
由貴を誘って、このカフェテラスで陽が暮れるまで色々と
語り合うのが、大学に入ってからの恒例行事だった。
今日は長くなると思って、コーヒーだけじゃなくて
ケーキセットも頼んだ。今夜は、ケーキも用意しよう。

由貴に話を聞いてもらってから、私は冷蔵庫の中身の
確認と部屋の掃除をする為に、てっちゃんの部屋に行った。

「さてと、買い物に行きますか♪」

部屋の片付けを済ませ、食材の買い出しにスーパーに
向かった。てっちゃんの気持ちを少しでも盛り上げる為に、
今日の誕生日はなんとしても成功させたかった。

それは、私のエゴなのかもしれないけど…

アパートの階段を下りると風が少し温かった。
天気予報で言ってた通り台風が近づいてるみたい。
珍しく天気予報が当たりそうだなぁ…と思いながら
私は早足で歩き始めた。

「あ~あ。やっぱり髪縛ってくればよかったなぁ」

強くなってきた風に髪を弄ばれていると、私は
不思議な光景を目にした。紅く色付く樹の向こうに
私自身を見かけた。風にセミロングの髪をなびかせ
グレーのカーディガンを羽織った…今日の私と同じ格好の。

一瞬、私は何が起こったのか分からなかった。
見間違いかと思ったけど…アレは私自身だった。
何の根拠も無いけど、漠然とそんな気がした。

突風でスカートの裾に気をとられてる間に
彼女を見失った。辺りを探したけど、もうどこにも
彼女の姿は見え無かった。そんな…私なワケ無いよね。
やっぱり就活で疲れてるんだ。

そう…疲れてたんだ…。てっちゃんが仕事で
疲れてる事は分かってるんだし、私が我儘言って
余計に疲れさせてちゃダメだよね。こんな事で
音を上げてたら、これから先だってやっていけないし。
今夜は、てっちゃんに少しでも楽しい時間を
過ごしてもらおう。いっぱい、いっぱい……………








気が付くと、私の視界には白い天井が見えた。
見覚えの無い天井。横で人の声がする。
天井を眺めながら、段々と意識が覚めてくる。
人の声に意識を向けようとすると、白衣を着た
白髪の老人が、私の眼球を照らした。
ここは…病院…?私…助かったの…?

「冴島さん。娘さん、気が付きましたよ」

医者がそう言うと、一人の女性が泣きながら
私に覆い被さってきた。娘さんってことは母さん…?
意識はあるけど、身体がうまく動かせなかった。

「よかった…病院から連絡もらって…びっくりしたんだから…」
「じゃあ冴島さん、まだ無茶をさせちゃいけませんよ」
「はい。ありがとうございました」
「母…さん…?」
「どうしたの美月?」

そう言って私の顔を覗き込んだのは、母さんじゃなかった。
私の知らない、女の人だった。その人は私の事を
【美月】と呼んだ…。何がなんだか分からなくなって
記憶と意識を整理しようとしたけど、そのまままた
奥底へ沈みそうになり瞼を閉じた。

その直前、窓際から見えた乳白色の満月が
まるで空にポッカリ開いた抜け穴のように見えた。
2006/12/10/Sun 01:30:43   十六夜~月下天真~/CM:0/TB:0/



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